布引遊園地とおんたき茶屋の歴史と魅力を紹介
山(六甲山)と海(大阪湾)が迫る神戸の街
神戸市中央区三宮の街を望む
神戸の街は、六甲山と大阪湾に挟まれた景色の中で発展してきました。
神戸の街の中心地は、兵庫県神戸市中央区の三宮です。
三宮から山手の方に歩き、六甲山の山麓に入るとすぐ布引という所に着きます。
名瀑:布引の滝
おん滝
この布引地区にはいくつかの滝があり、一帯が公園になっています。
落差が大きい順に、雄滝(おんたき)、雌滝(めんたき)、鼓滝(つつみがだき)、夫婦滝(めおとだき)です。
雄滝の高さは43メートルです。
雄滝が一番山手にありますが、新幹線新神戸駅からは徒歩15分程度で到着します。
最も近い雌滝には新神戸駅から5分で到着します。
4つの滝を総称して布引の滝といい、「日本の滝百選」に選ばれています。
滝のふもとにある茶店・創業110年
おんたき茶屋店内の様子
ここは六甲山登山への入口にもなっており、休日には多くの登山客で賑わいます。
おんたき茶屋は、この布引の雄滝の近くあり、2025年に創業110年です。
今でも観光客やハイカー、日常的な散歩客で賑わいます。
新幹線「新神戸駅」から徒歩15分 滝と対峙するように一軒だけ残る
Google Map
ロープウェイから
新神戸駅から雌滝、雄滝までは整備された登山道を歩いて行くことが出来ます。新幹線の駅をおりてすぐ雄大な自然に触れることが出来る場所は貴重です。海、山、街が近接している神戸ならではの環境を味わうことが出来ます。
布引の滝へは整備された登山道を歩いてい行くことが出来ます。
かつては登山道沿いに数多くの茶店がありました。しかし現在では、余暇活動の多様化により、おんたき茶屋一軒となりました。
平安時代からの観光地 江戸時代の浮世絵師・歌川広重
初代広重(1797-1858) 本朝名所摂州布引之滝
神戸大学小代研究室所蔵
布引の滝は、今から800年以上前の京都の平安貴族たちが観光地に訪れる場所でした。それ以降、布引の滝を詠んだ多くの和歌が残されました。明治5年に一帯を公園として整備する際には、36の歌が36の石碑に刻まれ、散策道沿いに配置されました。それは今でも見ることが出来ます。
江戸時代の浮世絵、歌川広重も名所の一つとして布引の滝
を描きました。滝の形から、雄滝のようです。
いまのおんたき茶屋のあたりに茶店も描いています。
当時からなんらかの茶店があったことがわかります。
昭和9年 版画家・川西英
川西英 「神戸百景」(23) 布引雄滝 昭和10年(1935) 「Photo : Kobe City Museum / DNPartcom」
昭和初期、神戸の観光スポットの版画を数多く残している川西英も雄滝を取り上げました。
左手の建物は現在のおんたき茶屋です。
現在もほぼ90年前の姿そのままです。
明治5年 布引遊園地開園
「摂州神戸布引滝より海岸を見る図」二代長谷川貞信画 明治7年頃
神戸市立博物館蔵 Photo : Kobe City Museum / DNPartcom
布引は明治時代の初めに公園になりました。
まだ日本に公園が無かった頃、神戸に貿易にやってきた欧米人に学び、この時日本で初めて公園が出来ました。
いまでも布引遊園地と呼ばれいてるのは、まだ日本に公園が無かった頃の名残です。
明治10年代には茶店など約30軒
摂津国布引瀧(明治10年代か)原画提供:前田康男氏、着彩:小代薫建築事務所(鬣峻)
明治10年代の布引遊園地の様子です。
斜面に張り出すように多くの茶店が建ち並んでいます。
版画の下のあたりが今の新幹線の新神戸駅です。
江戸時代から代々茶店が営まれてきた場所 当時の布引遊園地の写真
前頁の雄滝部分を拡大したもの
布引遊園地 横浜開港資料館
そのうち一軒だけ現代まで残りました。それがおんたき茶屋です。おんたき茶屋の場所には、「元茶屋」と描かれています。おんたき茶屋の創業は大正4年ですが、この場所は、それ以前から代々茶店が営業されてきたことがわかります。
先ほど版画で池があったところの写真です。いまの徳光院の山門の辺りです。写真の上の方には、うっすらと新生田川と海岸線が見えます。当時は大阪湾が一望できる人気スポットでした。いまは木が茂り、高層ビルも建ち並びこのような眺望は得られません。
詳細は神戸市史生活文化編に 2023年 神戸歴史遺産認定
前頁の雄滝部分を拡大したもの
布引遊園地 横浜開港資料館
さらに詳しく布引遊園地の歴史を知りたい人は、神戸市史生活文化編を読んでみてください。日本の近代登山は六甲山から始まりました。布引はその原点と言える場所です。
おんたき茶屋はそのようなハイキング文化の興隆見守ってきた施設です。名勝地を愛でながら飲食する施設という日本の伝統的な自然享受のスタイルがその和風の茶店に継承されています。このような歴史的価値が公式に認められ2023年に「神戸歴史遺産」に認定されました。
詳細は神戸市史生活文化編に 2023年 神戸歴史遺産認定
神戸布引おんたき茶屋保存会WEBサイト
「ontaki.jp」で検索!
写真・図面:小代薫建築事務所
「神戸歴史遺産」への申請は、22年に有志が設立した中間団体である保存会が行いました。布引に関わる大学教員や鉄道、新聞社、市民団体がメンバーとなり連絡協議を行っています。神戸ならではの風景をつくり世界に発信することを使命に活動しています。
おんたき茶屋の現況です。
いまはトタンに覆われていますが大正時代の建物がそのまま残っています。昭和初期につくられた、セメントで岩や木を模した擬岩、擬木柵も手が込んでおり見所です。
大正時代の建物が残っている 玄関、座敷、濡れ縁
右写真:おんたき茶屋山口さん提供
図面:小代薫建築事務所
大正時代との比較です。観瀑席のあたりもそのままのかたちで残っています。登山道の途中に門があるのはここだけ公園ではなくて民有地のためです。日本に公園が出来る前の公園なのでこのような特殊な形式になっています。
おんたき茶屋はそのようなハイキング文化の興隆見守ってきた施設です。名勝地を愛でながら飲食する施設という日本の伝統的な自然享受のスタイルがその和風の茶店に継承されています。このような歴史的価値が公式に認められ2023年に「神戸歴史遺産」に認定されました。
大正時代のおんたき茶屋
おんたき茶屋山口さん提供
左の写真は大正時代の濡れ縁から撮ったものです。
こちらの方がより滝を正面から観ることか゛できます。
戦前に閉じられてしまいましたが、今度の改装で解放される予定です。
左の写真は、門の前で撮った家族写真です。背後にいまと同じ建物が見えます。
雌滝(めんたき)にも茶店
昭和戦後の雌滝(めんたき)の様子 神戸市文書館提供
明治時代の雌滝(めんたき)の様子 神戸市文書館提供
こちらは新神戸駅に近い雌滝の茶店の様子です。
左が明治時代、右が1960年代頃の写真です。
滝の近くに橋を架けて茶店にしている様子がうかがえます。
明治時代の水道橋 ハイキング文化とともに茶店が増える
THE KOBE WALKING SOCIETY‘S SKETCH MAP OF HILLS BEHIND KOBE
神戸徒歩会 大正3年 神戸市文書館提供
新神戸駅からすぐの所には明治時代に出来たの水道橋があります。国の重要文化財に指定されています。当時は橋のたもとに写真館があり、この橋が背景となっていました。
大正時代のハイキング文化の興隆と共にこのような茶店は六甲山全体に広がっていきました。戦前までに六甲山全体で100軒近くの茶店が出来たことを確認することができます。図版は、神戸で最初に出来た登山会が作った登山道地図です。大正時代、神戸の人口が急増した時期には、再度山の山筋だけでも百数十団体ができました。
昭和2年の善助茶屋 毎日登山
左上:
善助茶屋のベランダ南端のテーブルにて 昭和2年頃
左下:
善助茶屋 推定大正2年頃
神戸徒歩会署名簿第一号に貼付されていた写真
共に善助茶屋跡を保存する会
毎日登山発祥の地善助茶屋 1978
ダイヤモンド登山会機関紙広告欄より
昭和4年 神戸市文書館提供
現在までの残る数少ない登山会の一つヒヨコ登山会の写真です。このような登山会は、山の清掃や登山道の整備、植
樹などを通じて六甲山の環境維持に貢献してきました。観賞用の樹木を背景にテラス席を設け、眺望と自然のなかで飲食を楽しむ姿が印象的です。
山が近い神戸の登山会に特徴的な活動として毎朝の早朝登山があります。茶店が記帳所となり、登山回数を競い合います。多い人は2万回を超えます。現在も毎日登山と言って神戸ならではの生活文化として受け継がれています。
山、都心、海を結ぶ生田川水系
生田川水系と布引
布引がある生田水系を上流に歩けば、気持ちの良い登山道が続き、水源地付近では自然保護地区になります。下流に下れば、都心三宮を経てウォーターフロントに行き着き、海のクルージングも可能です。山、都心三宮、海を結ぶ生田川水系の大事な拠点として布引遊園地を位置づけることができます。
地元有志による桜の植樹
左:神戸大学小代研究室 右:布引の滝に感謝する会
布引がある生田水系を上流に歩けば、気持ちの良い登山道が続き、水源地付近では自然保護地区になります。下流に下れば、都心三宮を経てウォーターフロントに行き着き、海のクルージングも可能です。山、都心三宮、海を結ぶ生田川水系の大事な拠点として布引遊園地を位置づけることができます。
ご寄付のお願い
おんたき茶屋は老朽化のため保存改修工事が必要です。
改修の方針は、当時の風情を残したま耐震補強し、可能な限りもとの部材を再利用することを考えています。
未来永劫、神戸の地理特性や歴史文化を発信する文化財となること願っています。
ご寄付いただける方は、以下のリンクから手続きをよろしくお願いいたします。